返済なし、所得制限なし、
抽選制の奨学金がめざす未来
※予備選考後に資格者多数の場合は抽選

「向いてない」との思い込みや科目への苦手意識から
STEM(理系)分野への進学をあきらめないで

田中 多恵
さん
公益財団法人 山田進太郎D&I※1 財団 事務局長
2021年、STEM分野への進学をめざす女子へ奨学金を「抽選で給付」する財団が出現したことが大きなニュースに。「日本はSTEM学生の女性比率がOECD※2のなかでも最低であることに注目し、このジェンダーギャップをなくすため、将来的には、STEM分野を選択する女性比率を2035年までにOECDの平均である28%まで伸ばしたい」という財団の思いについて、お話を伺いました。
※1 D&I:ダイバーシティ&インクルージョンの略。多様な人材を活かし、その能力が発揮できるようにする取り組みのこと。
※2 OECD:経済協力開発機構の略。ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38カ国の先進国が加盟する国際機関。

「やりたいことをやろう」
に込めたメッセージとは

―――奨学金を「抽選で給付」としたことに反響はいかがでしたか。

給付制の奨学金といえば、これまでは成績優秀者、または経済的に厳しいご家庭の方のためのものがほとんどでした。ですので、多くの方にご関心を持っていただくことができました。

―――応募と選考について教えてください。

応募の書類は簡易にしました。二百文字の志望動機を添えて、Webだけで10分程度で簡単に気軽に応募いただける形式としたこともあって、2021年の募集では100の定員のところに767件のエントリーをいただきました。2年目となる今年は、募集定員を中3が100名、高1(高2含む)が500人、合計600人に拡大しました。

―――200文字の志望動機にはどんなことが書かれたのでしょうか。

「STEM(理系)分野に進学したいと考えた理由や進学することで実現したい、あなたの夢やアクションプランを教えてください」という内容の自由作文です。将来何がしたいのか、まだ明確になっていない方、たとえば「理系の科目が好きだから」「そちらの方向に自分の未来がありそうだから」や、なかには「家族から『女なんだから勉強なんて必要ない』といわれて悔しいからこの奨学金を通じてSTEM分野に進んで見返したい」という内容もありました。

―――STEM学生の女性比率が低いことが、私たちの生活にどう影響しているのでしょうか。

皆さんの勉強の中身が大きく変わりつつあります。総合的な学習の時間が小学校・中学校で、総合的な探究の時間が高校で、プログラミング教育も2020年度から小学校で、2021年度から中学校で相次いで導入され、さらに2025年度からの大学共通テストで「情報」が加わります。

ところが日本の大学のいわゆるSTEM分野の学部、とくに工学系は、女子は依然として少数のところが多い状況です。つい最近も機械工学を学ぶ学生と話したのですが、130人中女性が10人ということでその学部に進むこと自体がとても勇気が必要だったこと、女性ならではの悩みを共有する相手が少ないなどの悩みを教えてくれました。

もし、ある女子生徒が将来社会でどんな役割を自分が果たしたいのかを考えたときにその学部で学びたいと思って進学しても、そういった環境に身を置くことで萎縮し、男子に遠慮して自分らしさを発揮できない場面があるかもしれないことはとても残念で、もったいないと思います。

どうして企業は、STEMの素養を
備えた女性を採用したいの?

―――採用する企業の声はいかがでしょうか。

「STEMの素養を持った人材、特に女性を採用したいけれど、応募が少ない」という声がすごく上がっていると聞いています。これからの社会ではデジタル技術がますます重視され、企業のビジネスモデルも変化していきます。つまり、どんな仕事をするにあたってもデジタルやSTEMの素養が必要となるのは間違いないところです。

―――企業はなぜ女性を採用したいのですか。

企業にとっては、女性が多くなることで多様性が豊かになり、化学反応が起こりやすくなるからです。たとえば最近では「女性視点が入らないと偏った商品開発となり女性が不利益を被る」ということもわかってきているので、女性たちがSTEM分野で活躍していくことがこの先の未来をつくっていく、社会の進歩が実感できるようになると感じているところです。

もちろん働く女性にとっても、STEM分野を選ぶメリットは多いです。女性ならではのライフイベント、たとえば出産をしてもそういったSTEM分野をベースとした高い専門性やスキルがあれば職を失わない可能性が高まるでしょう。

なぜ文理選択時に理系を選ばないで
文系を選んでしまうの?

―――どうして理系ではなく文系を選ぶ生徒が多くなってしまうのでしょうか。

今、日本では、文系が女子の進路選択のデフォルトになっているように思うのです。

私たちの財団のアンバサダー(STEM系を学ぶ大学生メンバーで構成するチーム)のひとりに、日本に住んでいるインド人の子がいます。彼女に聞いたら、インドのカルチャーでは男女関係なく文系に行くのが時代にあっていないという感覚らしいんですね。理系を選ぶのが当たり前で、彼女ももちろん理系なんですけど、「優秀ならば理系にいけ」みたいな感じらしいんです。こんな風にカルチャーが異なれば個人の意識も影響を受けるので「理系を選ばないのは、もったいない」という意識が日本の社会全体に浸透していけば、生徒の進路選びも変わっていくのではないでしょうか。

―――生徒にも「理系は苦手が一科目でもあると苦労するから文系」の先入観があるでしょうか。

そうだと思います。数学とか物理でつまずくのは女子が多いというイメージをもたれがちですが、OECD*2の学習到達度調査の結果では、日本の中3の女子たちは算数の成績でみると、世界のなかでも十分優秀なんです。中・高の理科の先生と話をしても「表現力があり、仮説を立てて課題解決的に考えていくことに積極的に取り組める女子は多い」と聞くんですね。

ところで先日、東京工業大学※3 が「入学試験のうち総合型・学校推薦型選抜で2024年度から143人の女子枠を導入」と報道され話題になりました。

男女のジェンダーギャップを是正していくという点では、大学入試のこのような多様化は好ましいことだと思うのです。

もちろん大学での学修に必要な基礎学力があることが前提ですが、数学や物理がとても秀でている生徒だけが集まる場でいいのか、それとも多様性という意味で異なる入試で合格して表現力のある女子が入ってきた方が豊かな学びになるのでは、というところもあると思います。

―――最後に読者にメッセージをお願いします。

生き方や考え方、とくにキャリアに「正解」はない時代です。向いてないとの思い込みや科目への苦手意識からSTEM分野への進学をあきらめないでほしい。私たちの奨学金を中・高生たちがよき選択肢とすることで、好きな分野を選択し、自分で夢をつかみ取ってほしいと願っています。

―――本日はありがとうございました。
インタビュー:2022年11月下旬
※3:2024年度から「東京科学大学」に名称変更予定。
山田進太郎D&I財団プロフィール
メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎氏が2021年に設立。活動の目的は「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進することで、性別・年齢・人種・宗教などに関わらず誰でも自分の能力を発揮し、活躍できる社会の実現に寄与する」とし、まずは日本の理系のジェンダーギャップ改革に取り組む、としています。
※2023年4月入学の募集は終了しました。2024年度入学の募集は変更となる場合があります。