温度差で発電できるクリーンな技術を応用 小型の発電チップが秘めた、新エネルギーの可能性
福岡工業大学
工学部 電気工学科 田島研究室

温度差で発電できるクリーンな技術を応用
小型の発電チップが秘めた、新エネルギーの可能性

近年、廃熱を電気に変換する熱電発電技術に注目が集まっています。熱電発電とは、高温部分と低温部分との温度差によって発電できる、クリーンなエネルギー技術です。その熱電発電という技術の中でも、福岡工業大学工学研究科電気工学専攻のY.Kさんが研究を進めているのが、スピントロニクス技術(電荷と磁気の2つの性質を活用する技術)を利用した熱電発電素子「STE(Spin Thermoelectrics)素子」の開発。STE素子は、わずか1cm四方という超小型で、その特性を生かし、スマートウォッチなどのウエアラブル端末への応用が期待されています。小さな世界の中に、大きな可能性を秘めたSTE素子。Y.Kさんの研究の姿から開発の現在地と、未来への展望を追いかけます。

小型化によりウエアラブル端末にも搭載可能に

幼少期からとにかく科学が好き。高校時代は科学部に所属し、あらゆる現象を実験で検証し、全国の高校生が集まる学会では研究結果を発表するなどさまざまな活動を行っていました。それが今の私に繋がる原体験です。大学進学の際には、暮らしに欠かせないインフラ、電気について学びたいと電気工学を専攻。3年次には「電気二重層キャパシタ」を研究する田島研究室の門戸を叩きました。田島先生のもとで学ぶうちに、今の研究を深掘りしたいという思いが芽生え、大学院へ進学。現在は研究と並行し、全国のさまざまな学会にも参加しています。

今私が取り組んでいる研究は、小型の熱電発電素子の開発です。熱電発電とは廃熱からつくる電気エネルギーのことで、わずかな温度差でも発電できるのが特徴です。廃熱は身近なものでいうと、稼働中の冷蔵庫の側面などに発生する熱。近年、熱電発電は無駄な熱をエネルギーに換えるエコな発電技術として注目を集めています。その中でも、私が取り組んでいるのはスピントロニクス技術(電荷と磁気の2つの性質を活用する技術)を利用した熱電発電素子、STE素子(Spin Thermoelectrics)の開発です。

STE素子の特徴は、従来の熱電素子よりも小型化が可能で、そのサイズはわずか1センチ四方。部品数が圧倒的に少なく済むこともあり、スマートウォッチなど、ウエアラブル端末への応用が検討されています。例えば、スマートウォッチに導入した場合、装着時の人肌の36℃前後の熱と、外気の冷気の温度差から発電。現在、開発中のSTE素子は発電量の少なさが難点ではありますが、近い将来、傾きや振動などを計測するセンシングに必要な微量な電力をまかなえるのではないかと考えています。
「グローバルPBL」で訪れたカナダのブリティッシュコロンビア大学にて。パンデミック以降は拠点を日本に移し、プログラムを継続中。

地球にやさしい発電蓄電システムを構築したい

この研究の最終目標は、STE素子で発電した電力を、田島研究室のメインテーマである電気二重層キャパシタで蓄電するという、発電蓄電システムを構築すること。電気二重層キャパシタは、急速な充放電が可能な蓄電池で、田島研究室では廃棄物(焼酎かすなど)を燃焼させてつくる活性炭を原料とした地球にやさしい蓄電池です。このSTE素子が、未来への大きな可能性を秘めたエネルギーハーベスティング(廃熱など身の回りにある小エネルギーを電力に変換すること)に少しでも貢献できる技術となれば、これ以上嬉しいことはありません。

そのほかにも、学部生の頃から福岡工業大学のプログラム「グローバルPBL(Project Based Learning)」に参加し、貴重な経験を得ました。学部3年次にはカナダに2週間滞在し、協定校のブリティッシュコロンビア大学の学生とともに、太陽電池と電気二重層キャパシタを組み合わせた発電蓄電システムを作成。この経験のおかげで、技術者にとっていかに英語力が重要であるかを痛感しました。現地学生と思うように意思疎通が取れなかった悔しい経験が、今英語の勉強のモチベーションになっています。研究に打ち込んだ日々と同様に、大学で経験したすべての瞬間が、卒業後社会人として生きてくるはず。将来は、地元北九州で地域の発展に貢献できる技術者になりたいです。
表面にプラチナの膜をコーティングしたSTE素子。
電気炉は最高温度約1,100℃。随時素子の焼成の具合をチェック。
Y.Kさん
大学院 工学研究科 電気工学専攻 修士課程 2年
福岡県立小倉高等学校出身。高校時代は科学部に所属するなど生粋の理系男子。高校卒業後、福岡工業大学工学部電気工学科を経て、同大学大学院工学研究科電気工学専攻へ進学。国家資格である電気主任技術者の資格を取得。卒業後は高度な精密加工技術を有する地元企業に就職。
福岡県立小倉高等学校出身。高校時代は科学部に所属するなど生粋の理系男子。高校卒業後、福岡工業大学工学部電気工学科を経て、同大学大学院工学研究科電気工学専攻へ進学。国家資格である電気主任技術者の資格を取得。卒業後は高度な精密加工技術を有する地元企業に就職。
田島 大輔教授
工学部 電気工学科
2005年宮崎大学大学院電気電子工学専攻修了。2008年同大学大学院物質エネルギー工学専攻修了。2015年福岡工業大学工学部電気工学科助教、2018年に准教授に就任。2021年より現職。
2005年宮崎大学大学院電気電子工学専攻修了。2008年同大学大学院物質エネルギー工学専攻修了。2015年福岡工業大学工学部電気工学科助教、2018年に准教授に就任。2021年より現職。
田島 大輔教授
工学部 電気工学科
2005年宮崎大学大学院電気電子工学専攻修了。2008年同大学大学院物質エネルギー工学専攻修了。2015年福岡工業大学工学部電気工学科助教、2018年に准教授に就任。2021年より現職。
2005年宮崎大学大学院電気電子工学専攻修了。2008年同大学大学院物質エネルギー工学専攻修了。2015年福岡工業大学工学部電気工学科助教、2018年に准教授に就任。2021年より現職。