顕微鏡とレーザーを組み合わせた実験装置。装置はすべて自作している。

日本工業大学
基幹工学部 応用化学科
池添研究室
Ikezoe’s Lab. Faculty of Fundamental Engineering,
Department of Applied Chemistry, Nippon Institute of Technology

磁石でモノを浮かせる「磁気浮上」の技術で
不可能を可能にするさまざまな研究に挑戦!

モノを空中に浮かせて、手を触れずに自由自在にコントロールできる——。そんな魔法のような技術を実現できたら面白いと思いませんか?

日本工業大学基幹工学部の池添泰弘教授は、磁石を使ってモノを浮かせる技術を開発しています。この「磁気浮上」の技術を使えば、宇宙に行かなくても地球上で無重力のような状態を実現できるといいます。

きっかけは、大学院生のときに、指導教授から「磁石で水を浮かせられないか?」と聞かれたことでした。当時、身のまわりの磁石で水を浮かせることなど絶対にできないと思われていましたが、当時の池添教授はその常識にとらわれず、無邪気に「じゃ○○すればいいですよ」と軽く答えたことがあらゆる課題を解決することに。このアイデアから生まれた実験で、空中に水を浮かせることに成功。この成果を論文として発表したところ、世界中から大きな反響がありました。

池添教授は、自ら発見したこの現象に「磁気アルキメデスの原理」という名前をつけました。そして、2014年に着任した日本工業大学で、この原理を応用したさまざまな研究に取り組んでいます。

きっかけは大学院生の無邪気な発想だった

私が「磁気アルキメデスの原理」のアイデアを思いついたのは、いまから20年以上も前の大学院修士2年生の時です。ある日、指導教授から「磁石の力で簡単に水を浮かすことが出来ればとても面白い。しかし、常識的に考えると身近にある小型の磁石では出来ない。何かいい方法はないだろうか?」と言われました。理論的には、水が持っている『反磁性』(磁石に反発する性質)と呼ばれる性質を利用すれば、磁石で水を浮かせられることは知られていました。しかし、現実的には、この反発力は非常に小さいので、磁石で水を浮かすには世界に数台しかないような超強力磁石を使わなければなりませんでした。教授から私への問いは「もっと簡単に、誰でも水の磁気浮上の実験が出来るような方法はないか?」という意味でした。「急にそんなことを言われても……」と思いつつ、咄嗟に「水の周囲を磁石に引き付けられる物質(例えば酸素ガス)で満たしてしまえば出来ると思います!」と答えました。実は、この咄嗟の一言が大発見だったのです。その後、水だけでなく、ガラスやプラスチックなどさまざまなものを磁石で浮かせられることを論文で発表したところ、世界中から大きな反響がありました。大学院修了後は、この研究から10年以上も離れていましたが、2014年に日本工業大学で教員として採用され、磁気浮上をベースにした研究を進める環境も得られたことで、先駆的な研究に日々取り組んでいます。

磁気浮上の技術は生命科学や医療分野でも応用できる

磁気浮上の技術は、さまざまな分野で応用できます。例えば、無重力状態を使った実験です。近年注目される宇宙実験は莫大な費用がかかり、機会も限られます。その点、磁気浮上の技術を使えば、誰でも、いつでも、目の前で簡単にモノを浮かせることができます。浮かす対象として重要なのは、「水」です。水は物質が化学反応を起こす舞台としても重要で、微小重力環境下(宇宙ステーション内部のこと)にある水溶液中で、タンパク質分子の結晶を成長させ、分子構造を解明する実験などが常に行われています。水を宙に浮かせる技術は、この宇宙実験を代替するものになるでしょう。

それ以外には、シミュレーションの技術を使って、磁石のまわりの磁気的な力を解析して、物体を浮かすための最適な磁石の形状や配置などを調べています。

近年問題になっているマイクロプラスチックを磁石で分離する技術の開発など、さまざまな分野での応用が期待されています。

また、最近力を入れているのが、液体表面の分析装置の開発です。これは、浮いた液体表面に物質が付着したときの表面張力の変化を測る装置です。これが実現できれば、細胞膜に物質が付着し細胞内に取り込まれるときの構造を明らかにできるかもしれません。

このように磁気浮上の技術を応用して、応用化学だけでなく、生命科学、医療など幅広い分野にまたがる『磁気科学』を発展させ、不可能を可能にするチャレンジを続けていきたいと思っています。

実験で用いるMOF(Metal Organic Frameworks:金属有機構造体)の試料。

 

 
実験で用いるMOF(Metal Organic Frameworks:金属有機構造体)の試料。


高校生に向けてのメッセージ Message
「常識にとらわれないこと」が強みになることがあります。私が磁気浮上を発見したエピソードがその好例です。ぜひ思いついたことは、何でも発言し、行動するようにしてください。挑戦して失敗した経験は宝になりますが、一歩踏み出せばできたのに、しなかった後悔は一生残ります。ぜひ勇気を出して行動を!
日本工業大学 池添 泰弘 教授
Profile
基幹工学部 応用化学科
池添 泰弘 教授
東京大学工学部応用化学科卒(博士(工学)応用化学専攻)、東京工業大学、理化学研究所、ニューヨーク市立大学での研究員を経て現在に至る。
東京大学工学部応用化学科卒(博士(工学)応用化学専攻)、東京工業大学、理化学研究所、ニューヨーク市立大学での研究員を経て現在に至る。

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