Department of Housing and Interior, Kyushu Sangyo University
環境工学×生理学×心理学の専門手法で
段ボールベッドの居心地を総合的に評価
梱包資材としてだけでなく、最近ではベッドや収納ボックスといった生活用品の素材としても使われている段ボール。緊急災害避難施設においては、応急利用できる資材として有用されており、多くの被災者が段ボール製のベッドで寝泊りをしています。組み立て式の段ボールベッドは再利用可能で、軽量のため持ち運びもスムーズ。さらに、汚れたら取り替えられるため衛生面も優れています。しかし居心地に着目すると、強いストレス下にある被災者への提供に値する性能を有しているのかは、まだわかっていません。
香川准教授がプロジェクトリーダーを務める居住環境デザインゼミナールでは、通信用機器や測定センサーなどのICTツールを駆使して、段ボールベッドの居心地について研究しています。学生メンバーは、3年生8人、4年生11人の計19人。これまで学んできた環境工学の技術・技能に、生理学と心理学という異分野の手法を取り入れながら実験研究を進めています。そこから得られたデータや知見は、どのような分野に活かされるのでしょうか。研究内容や今後の展望について、香川准教授にお話を伺いました。
地域の気候風土、生活習慣に合った被災生活の実現へ
被災生活は仮住まいとはいえ、人生のなかにある瞬間だということには違いありません。その場しのぎではなく、地域の気候風土や生活習慣に合った課題解決策を立てることが重要です。近年、緊急災害避難施設では、段ボールベッドをよく見かけるようになりました。被災者の方々にとっては睡眠だけでなく、一日の多くの時間を過ごす大切な生活空間となっています。このプロジェクトでは、そんな段ボールベッドの居心地を科学的に解明するために、環境工学、生理学、心理学の専門手法を用いています。3つの異なる学問分野の手法を統合するというユニークな研究は、建築都市工学部と人間科学部がある九州産業大学だからこそ実現できることです。
“真の居心地”を解明するための具体的な測定内容は、段ボールベッドで過ごす居住者の心理・生理量と、居住者の周囲空間の環境物理量です。居住者の気分尺度、体温、脳波、発汗量などを専用の装置によって測定。パーテーションの色や柄、ベッドの高さが与える影響など、居住空間に関するあらゆる項目について調査します。また、居住者の周辺の気温や湿度、気流速度、放射量、照度、騒音レベル、大気圧、パーテーションの表面温度や伝導熱流量などを測定し、居住者をとりまく環境物理を調べています。
実験では、「居住者が空間をとらえる主観」と「測定装置が居住者の居る空間をとらえる客観」に基づいた総合評価を試みています。人間というのは、どうしても忖度してしまうほか、季節や時間帯、体調によっても感じ方が変わっていきます。被験者が快適な空間だと話していても、心の中ではそう思っていないことや、脳波を見ると逆を示しているということも珍しくありません。だからこそ、3つの学問分野によって総合的に評価することが重要なのです。
居心地に関わる多くの分野の研究発展に向けて
研究は、地元の段ボールメーカーと計測・分析器のメーカーとも連携協力し行っています。段ボールや開発中の計測器を使わせていただくかわりに、使用時の被験者の感想や改善点をフィードバック。学生たちが主体となってメーカーの方々とやりとりをするうちに、自ずとビジネスマナーが身につき頼もしくなりました。こうして測定した数値を、データとして蓄積し続けています。さまざまな条件と比較して居心地が良いとされる数値が示せれば、それに基づいた環境を緊急災害避難施設で再現することで、より多くの方の居心地がよくなるでしょう。
段ボールベッドの性能を主観と客観から総合的に評価する技術を開発できれば、医療現場や子どもの遊び場など、居心地に関わる多くの分野の研究発展に寄与できると考えています。もちろん、生活の質向上や、素材を利用した生活用具の価値創造にも繋がるはずです。緊急災害避難施設用の段ボールベッドの購入や利用を検討している自治体には、選び方や利用方法について助言できるようにもなるでしょう。居住環境デザインゼミナールの取り組みを通じて、被災者の方々のストレスを少しでも緩和できたらと思っています。






