Information and Communication Engineering, Fukuoka Institute of Technology
災害情報を電子化し、意思決定を迅速に!
自治体へシステム導入の促進をめざす
近年、日本では地震や台風、豪雨など、数多くの自然災害に見舞われています。しかも、災害が頻発するだけでなく、その規模や範囲が大きくなっていると感じることもしばしばです。そんな私たちにとって大きな自然災害として記憶に新しいのは2011年3月11日に起きた「東日本大震災」ではないでしょうか。電気、ガス、水道など、ライフラインに甚大な被害が発生し、通信の途絶や庁舎の被災などにより、被害状況の把握や報告、発信などへの支障が数多く発生したといわれています。
そんな未曾有の大震災発生時、岩手県の中部に位置する滝沢村(現滝沢市)の職員として勤務していた石田智行教授。石田教授が対策本部の運営にあたった当時、電話で災害情報を収集したり、集まった情報をひたすら届いた順に手書きでまとめていたりと、アナログな情報管理が主流で、情報の把握と管理が困難な状況にあったといいます。石田教授はその実体験から、インターネット上で情報共有・管理を行い、瞬時に意思決定ができるシステムのクラウド化に取り組むことを決意。この災害時におけるクラウドの重要性と、システムの実用化に向けた石田教授の熱い思いを伺いました。
アナログによる情報の煩雑性と遅延に待ったをかける
2011年3月11日東日本大震災が発生。当時私は岩手県中部の滝沢村(現滝沢市)の職員として勤務しており、内陸にもかかわらず大きな揺れを経験しました。すぐさま庁舎内には災害対策本部が設置され、私は災害対策本部の情報機器の設置及び庁内システムの管理維持にあたることに。そして約1か月後には、岩手県の沿岸中部に位置する山田町に派遣され、避難所運営などの業務にあたりました。
避難所の運営で、物資の管理、提供、広報活動など多岐にわたる対応に追われる一方で、災害対策本部では倒木や道路陥没などの確認、共有のために紙ベースの地図を利用し、本部にもたらされるさまざまな情報をホワイトボードや模造紙を利用して集約を行っていました。それ以前も、台風や河川の氾濫といった災害は発生し、自治体として災害対策の経験はありましたが、当然電話も繋がりますし、携帯電話や無線等で問題なくやり取りができるレベル。しかし、東日本大震災が発生し、膨大な情報が災害対策本部に入ってきたため、そこで初めてアナログで情報を取得、共有することに限界が生じました。市民のみなさんに情報を出すまでのタイムラグが大きく、この体制のままでは最悪の事態も免れない…。その実体験により、私は2013年からすべての災害情報を電子化し、重要度に合わせた情報の仕分けができる災害情報登録システムを開発し始めました。
過去の情報を元手に、未来の防災をAIが提案
現在は、AI技術による災害対策本部業務の自動提案技術やIoT機器による避難所運営のためのシステム開発の段階に入っています。
自動提案技術とは、災害情報登録システムに過去の災害情報を登録、蓄積することで、台風が発生した際に過去の台風情報と照合し、特徴が近いものを抽出して、避難所の開設数や必要な物資の量、土のうの数などを自動で提案するもの。過去の議事録を見返す必要はなく、過去の災害情報を元手にAIが学習を続けていけば、同じような地形や人口規模の町を比較し、該当の地域に当てはめて試算することも可能ではないかと構想しています。加えて、災害対策本部のバーチャル化の研究にも着手。情報のクラウド化が進めば、リモートで災害対策本部の運営指揮がとれるため、もし庁舎が被災しても業務を続けることができます。コロナ禍における三密回避にも効果的です。
私が住む福岡・九州は、台風や豪雨災害がとくに多いエリアです。観測以降初めてというような地域でも災害が起きており、そういった自治体は手元にノウハウがありません。東日本大震災後は、広域連携の重要性が再認識されました。市境も県境も関係なく災害は起きます。「隣の町のことは知らない」では、人々の命は守れないのです。今後は、現在開発しているシステムをもとに、町の規模や特徴によりカスタマイズした精度が高く使い勝手のいいシステムを自治体へ提供できるようになりたいです。まだまだ開発の道半ば。いつくるとも分からない災害を前に、研究の手を休めることはできません。






