福岡工業大学
工学部 生命環境化学科
松山研究室
Matsuyama Lab. Faculty of Engineering, Department of Life, Environment,
and Applied Chemistry, Fukuoka Institute of Technology

食品や化粧品など、生活を影から支える
液体でも気体でもない「超臨界流体」

物質の三態の内、液体である水は0℃まで冷やすことで固体の氷になり、100℃まで加熱することで沸騰して気体の水蒸気に変わります。さらに水は、温度と圧力が異なる環境下では別の表情を見せます。374℃、218気圧を境に、気体と液体両方の性質を併せ持つ超臨界流体となり、水は超臨界水に変化。この、超臨界流体になる温度と圧力の上限を臨界点といい、物質によってこの温度と圧力は異なります。超臨界流体とは気体と液体の区別がつかない状態といわれ、気体特有の拡散性と、液体特有の溶解性が特徴です。また、水と同じく超臨界流体によく用いられるのが、二酸化炭素。水よりも臨界温度が常温に近く、31℃、72.8気圧で超臨界二酸化炭素へと変化。1つの特徴として水、二酸化炭素ともに、自然界に大量に存在し、基本的に人体に無害である点が挙げられます。

では、この超臨界流体の技術は私たちの暮らしにどう生かされているのでしょうか。実は、自動車や食品、化粧品、農業と、その領域は多岐に渡っています。そこで、国内外の名だたるメーカーと共同研究を行うなど、超臨界流体の研究を牽引する松山准教授に、超臨界流体の仕組みや展望について伺いました。

超臨界流体の技術により化粧ノリがアップ!

超臨界流体と聞いて、すぐにピンとくる人は少ないかもしれませんが、意外にも日常に取り入れられている技術の1つです。なかでも身近なアイテムは、化粧品のファンデーション。10数年前、当初ファンデーションに含まれるタルクという板状のミネラルの成分が、肌の上にのせると光を一方向に反射させてしまうため、角度によってはくすんで見えてしまうという問題点がありました。そこで、超臨界二酸化炭素を用いることで、タルクの粉体表面に酸化チタンをナノメートルの薄膜で均一にコーティングすることに成功。二酸化炭素には、超臨界流体の状態から温度と圧力を下げると、液体にならず気体になって空気中に拡散するため、微粒子を均一につけることができるのです。よって、光をあらゆる方向に反射させ、肌全体を明るく見せるファンデーションを共同研究先の企業が製品化しました。さらに、カフェなどで目にするカフェインレスのコーヒーも、その技術を応用したもの。約40年以上前に開発されたもので、超臨界二酸化炭素をコーヒー豆に通してカフェインを除去する方法が用いられています。超臨界状態になった二酸化炭素には、物質を溶解する機能があるため、カフェインの成分を抽出することが可能に。薬品は使わず、二酸化炭素のみで抽出ができるため、そのものの味を損なわず、おいしいコーヒーが楽しめるようになりました。

水や二酸化炭素という身近で安全性の高い物質を使用しているからこそ、こういった生活に身近なさまざまな製品に応用されています。この安全性から、機能性食品素材を対象とした抽出溶媒として、今後さらに期待が高まると考えられます。

暮らしを劇的に変える、大きなインパクトを与えたい

現在は、有名メーカーと共同で、電気自動車のバッテリーを長持ちさせるための超臨界流体を用いた機能性材料の開発に取り組んでいます。充電と放電が効率よくできることで、電気自動車の普及を阻む主な原因、“充電に時間かかる”“電気の容量足りない”などの問題をブレイクスルーすることが可能になるでしょう。正直、私たちが開発した材料は、テレビのCMに登場しないので、消費者の方から注目をされたり、脚光を浴びたりすることはほとんどありません。しかし、人々の便利な暮らしを裏で支えていると思うと研究の楽しさややりがいも変わってきます。

そのほかにも、農業や製薬業といったあらゆる研究者や企業の技術者のアイデアとパワーを借りながら、研究を進めています。大手企業の技術者すら解決できない難解な問題を、私の研究をもって解決できるかチャレンジできることに、やりがいと面白さを感じていますし、これ以上に研究者冥利につきることはありません。今後、“超臨界流体でしか○○の材料を作れない”と、1つでも多くの分野でその領域にたどり着くよう、さらに今の技術を確立していきたいと思います。かつて、携帯電話(スマートフォン)の登場で世界が劇的に変わったように、超臨界流体の技術によって生活がさらに便利になるような大きなインパクトを、世の中に与えられると信じています。

 

サファイア窓付の高圧容器で超臨界状態のCO2の様子を観察している様子。

開発したファンデーション。
 

サファイア窓付の高圧容器で超臨界状態のCO2の様子を観察している様子。

開発したファンデーション。
高校生に向けてのメッセージ Message
近年の科学技術の発展のスピードはとても速く、10年前に最先端だった技術が「あっという間に過去のお話」に。その裏には、大学や企業の研究者、技術者のたゆまない努力と熱心な勉強があります。みなさんが毎日勉強しているのは、大人になって働くための準備期間ですので、今のうちからしっかりと勉強してください。
松山 清 准教授
Profile
工学部 生命環境化学科
松山 清 准教授
1996年アロン化成株式会社技術研究所入社。1997年福岡大学工学部化学工学科助手、2004年同大学同学部化学システム工学科併任講師を務める。その間、2003年九州大学にて博士(工学)の学位を取得。2012年より久留米工業高等専門学校生物応用化学科准教授。2019年より現職。
1996年アロン化成株式会社技術研究所入社。1997年福岡大学工学部化学工学科助手、2004年同大学同学部化学システム工学科併任講師を務める。その間、2003年九州大学にて博士(工学)の学位を取得。2012年より久留米工業高等専門学校生物応用化学科准教授。2019年より現職。

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